高校生用テキスト

○○高校の皆さんへ

自助具製作ボランティアグループ「京 自助具館」

代表  近藤 千津子

 

・はじめに

授業で「自助具」を取り上げてくださり本当にありがとうございます。まだまだ認知度の低い「自助具」を若い高校生を対象にお話ができるのは非常にうれしいことです。主に「自助具」を製作するときの思いや心構えなどについては、文書でお伝えすることにしました。授業の半分は実際に「自助具」に触れていただくことを重点にしたいと思います。また、過去の授業でよく出た質疑・応答をまとめたものを別紙にまとめてあります。アンケートも用意していますので、感想や質問などを聞かせてください。皆さんからどんな質問が出てくるか楽しみにしています。

 

今回の授業で是非とも知っていただきたいこと3点

1.「ユニバーサルデザイン」と「自助具」の違い

2.「自助具」を作るときに大切な心構え

3.「相手の立場に立って考える」という事の落とし穴

 

1.「ユニバーサルデザイン」と「自助具」の違いについて

  「ユニバーサルデザイン」…多くの人にとって使いやすいようにくふうされている。

               商品だけでなく公共施設の設備なども含まれる。

   「自助具」・・・その道具を使う人に合わせて使いやすいように調整された道具。

          市販品も増えてきたが、基本はオーダーメード。

 

・違いを理解するための例として「文房具」を考えてみましょう。

 

最近はユニバーサルデザインの文房具がたくさん店頭に並ぶようになりました。

昔のステープラーに比べると随分と小さな力で綴じることができるようになりました。

でも、手が不自由な方にも便利で使えるかというとそうではないことがほとんどです。

お一人お一人障害の程度や状態が違うので、使い易い形も違います。

AさんにもBさんにも健常者と同じように便利に使えるとは限らないのです。

 

ユニバーサルデザインは最も多くの人に合うデザインを決めて、商品を作ります。

年齢性別の区別は基本しません。同じデザインのものを皆が使います。

 

「自助具」は違います。片手が不自由といってもそれが右手なのか左手なのか、利き手が使えるのか使えないのかでも違います。全く感覚がないのか、感覚はあるけれど動かすことができないのか、その症状は本当にさまざまです。「片手が不自由な人にはこの自助具をどうぞ」というようなものではありません。体が不自由だからこそ使う人にきちんと合ったものでないと道具としての意味がないのです。

 

「自助具」は体が不自由でなかったら使う必要のない道具です。どんなによくできた「自助具」でも、健常者にとっては「わざわざこんなものを使わなくても・・・」というようなものです。そこが「ユニバーサルデザイン」と決定的に違う点です。

 

今までいろいろなところでお話をする機会がありましたが、ほとんどの方が「自助具」は「ユニバーサルデザイン」と同じようなものという理解でした。本日の授業でその違いと、それぞれの意味をよく理解していただけたら大変うれしいです。

 

2.「自助具」を作るときに大切な心構えとは

  (1)最初に依頼者の日常生活の行動パターン、使う目的をきめ細かく聞き取る。

     聞き取りには作業療法士などの専門職に立ち会ってもらう。

 

  (2)依頼者の気持ちや感想を最優先に考える。自分の思いや考えを押し付けない。

 

  (3)すでにある「自助具」でも年月が経てば生活様式の変化や

                 新素材の登場などがあるので、常に見直しをしていく。

 

  (4)自助具には緊急で一時的に使用するものと、継続して長期間使用する2種類がある。

(1)について

依頼者はどういうことができるようになりたいのか、どういう場面で使うのか、などを聞きます。具体的には食事の時か、洗面の時か、家で使うのか外出先で使うのか、仕事の時か、等々細かく聞きます。また好みの色を聞いたり、使う素材を選んでもらったりしています。可能な限りご希望に沿うようにしています。

 

活動日には相談員(アドバイザー)として作業療法士に来ていただいています。

リハビリなどについて正しい知識を持っていない我々はついつい便利さや楽さを追及してしまいます。しかし、それがリハビリにとっては逆効果になる場合があります。機能向上ではなく退行させるようなことになっては困ります。出来上がった自助具についても試用に立ち会っていただきチェックしてもらっています。

(2)について

人の役に立つものを作りたいという思いや、一生懸命考えた工夫などいろいろ熱い思いはメンバーの皆さんにあります。しかし、一番大切なことは使う人にとってそれが良いかどうかです。

皆さんにも一度くらいは経験があると思いますが、例えば誕生日プレゼントに自分の趣味とは違うものをもらってしまったとします。プレゼントしてくれた人は「何日もかかって昨日は徹夜もしたの。一生懸命作ったから使ってね!」と言ったとします。とてもじゃないですが「これは私の趣味とは違う」とか「使いたくない」なんて言えませんよね。「あ、ありがとう・・・」としか言えませんよね。

 

「自助具」を作った時も同じです。出来上がったものをお渡しするときに「いろいろ工夫したんですよぉ。材料も探すのに苦労しましたがぴったりのものが見つかりました。私としては大満足のものが出来ました。一生懸命作りましたので長く使ってくださいね。」と言ったとしましょう。内心「使い勝手が悪いなぁ」と思ったとしてもとても言えません。それではその方にちゃんと合った道具にはなりません。どんなに一生懸命苦労したとしても、ダメなものはだめなのです。それを自己否定されたように受け取っていては自助具は作れません。正直な感想を聞かせていただかないと改良はできません。いろいろ工夫したのなら、それを順番に全部お見せして「では、こんな方法もありますがどうですか?」と聞いていけばよいのです。また、「これが最良の方法です」と最初に言われてしまったら、「これが合わないのだったらもう他には方法はないのだろうか」と思ってしまいます。最良かどうかは使うご本人が決めることです。我々はあくまでもご本人が納得して下さるまで「では、これはどうですか」と提案し続けるだけです。

(3)について

具体例を挙げます。以前はスマホよりケータイが主流でした。今は逆転しています。PCもデスクトップ型からノート型へ、モバイルPCからタブレットへと変わってきました。ミニ紙パック飲料のサイズが変わっていました。以前のものは今よりも横幅が広くなっていました。縦・横の比率が変わったのです。

他にもよく見てみると変わったものはいろいろあります。また、素材の面でも新しい素材が次々に登場しています。さらには、3Dプリンターも個人で使える世の中になってきました。製作方法も選択肢が増えてきたのです。我々のようなところでも猛勉強して3Dプリンターで製作できるようにならなければと思っています。常に世の中の変化に敏感でありたいと考えています。

(4)について

2種類の一つは突然けがや病気になって手足が不自由になったときに使うものです。これは、すぐに必要です。1週間も10日も製作に時間をかけている間に治ってしまうかもしれません。少々見た目は悪くて、ありあわせの材料で作ったものであっても構わないのです。治ってしまえば不要になるのですから。

もう一つは既に長い間不自由な思いをされていて、今後も使い続けなければならない方たちが使われる自助具です。長く使うのですからしっかりとした作りで、色や形も好みのものの方が使う人もうれしいです。製作に時間はかかりますが、とことん話し合って出来る限りご希望に沿うようにしています。

 

一つ目について具体的な例を挙げれば、お箸を持てなくなった時にスプーンを使いますが、そのままでは持ちにくいときがあります。細い柄が持ちにくいので柄を太くすればよいのですが、簡単にできる方法があります。タオルのハンカチを適当にグルグル巻いて、輪ゴムでとめてしまえばよいのです。もしラップの芯などがあればそれをテープでぐるぐる巻いて留めれば十分です。お店で買わないと手に入らないものではなく、身の回りのもので工夫すればいろいろなものが作れます。特殊な材料や技術がないと作れないというものでは決してありません。

大事な事は、細い柄よりも太い方が持ちやすい、柄を太くする方法は一つではなく、タオルもラップの芯も空き箱でも何でもアリだという事を知っていることです。臨機応変にその時手に入るもので作ればよいのです。持てないのなら、手にくくり付けるという方法もあるということを知っていることが大事です。

 

3.「相手の立場に立って考える」という事の落とし穴とは

ここは近藤の個人的な考えです。多くの人には自分には理解できないものを排除したり恐れたりする感情があるのではないでしょうか。宗教の違いによる戦争などはわかりやすいでしょう。「誰も私のことを分かってくれない」という人がよくいますが、ではその人は自分以外の他者をどれだけわかっているのでしょうか。自分自身の事ですら100%わかっている人などいません。なのに自分のことを分かってほしいというのは傲慢なことだと思います。「わかるはずだ」という事を前提にすると「わかってくれない」相手を非難したりします。でも「100%の理解などない」を前提にすると、腹も立ちません。せめて60%位でも分かりあうためにはお互いに歩み寄り、相手を知ろうと努力しないといけません。相手を知ろうと思えば、相手の意見を聞き考え方を尊重しなければなりません。

「相手を尊重すること」これがすべての基本だと思います。自己主張ばかりして相手の意見など聞く耳持たない人は、孤立するよりほかないでしょう。

 

「相手の立場に立って考える」という言葉もあります。私は「相手の立場」をどれだけ理解できるのかと思います。あくまでも自分の経験と知識の範囲の中で想像したものでしかありません。

個人的な話をしますと、私は関節リウマチです。しかし、幸いにも初期治療のおかげで完治はしないものの、薬を服用していれば痛みもなく指の変形もありません。ですから同じ病気でも指の変形や関節痛に悩んでいる方のつらさを分かることはできません。同じ病気だというだけで相手と同じ立場に立てるなどとは思いません。発症した当時の激痛や歩けないつらさを思い出すことはできます。それは私の経験であって、目の前の方と同じものではありません。あくまでも「関節リウマチの経験のない人に比べたら私の方が多少は寄り添えるかなぁ」程度のものです。

 

同じような経験をしている場合ほど「相手の立場に立って、気持ちを理解できる」と勘違いしがちです。もっと謙虚になるべきだと思います。

 

・最後に

 

今日の授業がきっかけで、「自助具」がこれから先も皆さんの心の中に残って、大学生や社会人になっても「自助具」を覚えていて下さったら本当にうれしいです。自分で作ることはなくても、「自助具」を知ったことでこれからは困っている人に情報を提供するということだけでも立派な人助けになります。

 

「相手を尊重すること」「謙虚であること」などは決して自分を抑えて引っ込み思案になることではありません。相手に合わせて自分を変えることでもありません。相手と自分との違いを受け入れる余裕を持つことです。

相手の考えを聞いて、自分で考えてみて、それで自分の考えが変わったのなら、意地だのメンツだのにこだわらずに「考えの変わった自分」を認めてください。そうしないと、考えの違う人同士が話し合って歩み寄るなどという事はできません。

 

今後の人生で、今日の授業がお役に立てる機会がありましたらうれしい限りです。

本日は貴重な時間を与えてくださり心から感謝しています。

皆さんからの活発なご意見・感想をお待ちしています。よろしくお願いいたします。